小さなベーグル店の作り方

【移動販売のリアル】初めてのキッチンカー開業|許可・費用・運営の現実・ベーグルヤRokkoの場合

 

I. 「ガレージを店舗にする」案は、現実的ではなかった

ベーグル屋を始めようと決めたとき、最初に思いついたのは自宅ガレージを改装して小さな店舗にすることでした。しかし、すぐに現実の壁にぶつかります。ガレージには水道・ガス・電気が一切なく、インフラの整備から始めないといけない。これだけで相当な初期投資になります。

ベーグル屋がどれだけ売れるのかも分からない状態で、百万円単位の投資をするのはあまりにリスキーでした。子どももまだ幼く、これから塾や習いごとで教育費がどんどん増えていく時期。「今ここで大きな借金をして本当に大丈夫?」と冷静に考え、店舗改装は断念しました。

しかし、ベーグルを売るには場所が必要。そこで検討し始めたのが「移動販売」でした。

II. 移動販売は“好きな場所で自由に売れる”わけではない

当初の私は、キッチンカーとは「車で好きなところへ行き、停めて販売するもの」だと思っていました。しかし調べれば調べるほど、それは大きな勘違いだったと気づきます。

● 公道での販売はNG。固定の場所を確保する必要がある

公道に勝手に車を停めて販売することは法律上認められていません。実際には、

  • 商業施設の駐車場を借りる
  • イベントに出店する
  • 個人店と契約してスペースを使わせてもらう

など、必ず「許可された場所」が必要です。地域によっては道路使用許可の届け出が必要な場合もあり、意外と手間がかかります。

● 製造場所は別途必要。保健所の許可は店舗並みに厳しい

さらに驚いたのは、移動販売だからといって「車内で製造すればいい」というわけではないこと。ベーグルのような焼きものは、必ず別に「保健所許可を取った製造場所」が必要になります。

保健所許可では、以下のような点が厳しくチェックされます。

  • シンクの数・大きさ
  • 手洗い設備が適切にあるか
  • 換気設備
  • 壁・床の素材
  • 食品保管スペース
  • 動線が衛生的か

これはほぼ店舗と同レベルの厳しさで、「移動販売のほうが許可は簡単」というイメージは完全に覆りました。保健所の職員さんにも、

「移動販売でも衛生基準は店舗と同じですよ」
と言われ、気が引き締まったのを覚えています。

つまり、「移動販売 = 設備投資ゼロで始められる」というイメージは完全に誤り。

ベーグル屋の場合は
仕込み → 奥の作業場、販売 → ワーゲンバス
という形にしたため、車内で調理はしていませんでした。

III. ワーゲンバスを選んだ理由は“好きだから”だった

実は私、クラシックカーが好きで、特にワーゲンバスにはずっと憧れがありました。移動販売をするなら絶対にワーゲンバスがいい、と心の奥で思っていたのです。

毎日中古車情報をチェックし、ようやく岐阜県で移動販売に使われていたワーゲンバスに出会いました。カフェを営業していたオーナーさんがイベントに使っていたワーゲンバスをちょうど手放すタイミングで、ありがたいご縁があり譲っていただけることに。

シンクが2台備わっており、イベント出店の実績もある理想的な車両。
ベーグルヤのカラーの山吹色をした車体も理想的で、「これしかない!」と思う一台でした。

IV. 現実:ワーゲンバスはとにかくお金がかかる

しかし、そこはクラシックカー。ロマンとセットで“現実”もついてきます。

● 容赦なく壊れる

ワーゲンバスは古い車なので、不調は日常茶飯事でした。

  • 頻繁にバッテリーが上がる(営業が終わると夜中、ポータブルバッテリーで車体バッテリーに充電)
  • 部品交換は高額(部品は取り寄せになることがしばしば。何週間もかかることも)
  • 修理工場に長期間預けることもしばしば(次々に故障個所が見つかったりします・・・)

店舗改装費は節約できたものの、ワーゲンバスのメンテナンス代でかなりのお金を使う結果に。軽の比較的新しいキッチンカーにしておけば…と思ったのは一度や二度ではありません。

V. 身体的に一番きつかったこと

● 天井が低い

車内でまっすぐ立てず、販売中は常にスツールに座って作業。腰や肩に負担がかかります。

● 冷暖房がない

夏は蒸し風呂、冬は極寒。気温の変化に体力を奪われました。

● 水の確保が大変

手洗い用のタンクを運び入れるのも重労働。車内で調理をするなら、キッチンカー専用車両にしたほうが絶対に良いと感じました。
キャンピングカーなどは、ホースを引き込めたり、設備も充実です。

VI. 忘れられない「怖おもしろ」運転エピソード

ここでひとつ、今では笑い話のエピソードを。

私自身、ミッションの免許は持っていましたが、家の車はずっとオートマだったため、ミッションを運転する機会がほとんどありませんでした。 つまり“実質的なペーパードライバー”状態。

● 運転講習を2日間受講

いきなりワーゲンバスを運転するのは怖すぎる。そこでプロの教官に隣に乗ってもらい、ポートアイランドで2日間みっちり練習しました。

最初は手が震え、エンストしまくる。だけど徐々に車のクセをつかみ、なんとか一人で街を走れるようになりました。

● エンスト → レッカー移動はしょっちゅう

慣れた頃でも突然止まるのがワーゲンバス。何度もレッカーのお世話になりました。怖かったけれど、今振り返るとすべてが良い思い出です。

VII. それでも移動販売を選んで良かった理由

苦労は多かった。
メンテ代もかかった。
身体もしんどかった。

それでも、移動販売から始めて本当に良かったと思っています。

● 小さく始められた

一番のメリットはこれ。
「いきなり店舗を持つ」プレッシャーから解放されました。

● お客様との距離が近い

ワーゲンバスを見て声をかけてくれたり、写真を撮ってくれたり。
そこから会話が始まり、常連さんになってくださる方もいました。

● ワーゲンバスそのものが広告になった

可愛い車体は、存在そのものが看板。
SNSでも広まりやすかったです。
ベーグルヤが他と差別化できたと思います。

 

VIII. まとめ:移動販売は“手軽ではない”けれど、最高の第一歩だった

移動販売は手軽に見えて、実際には手続きも多く、体力も必要で、トラブルもつきものです。それでも、私はこの方法を選んでよかったと心から思います。

ワーゲンバスと過ごした時間は、私にとって、小さな店を開くための大切な「最初の一歩」でした。

続きは次のステップ⑧で、三足のわらじ時代を語ります。
▶ ステップ⑧の記事を読む

ベーグル開業ロードマップはこちらから読めます。
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