枝豆とカルピス 20

オリジナル小説

ラインの返事は良いもので、キヨラはぴょんぴょん跳ねながら、

健士のもとへ向かって戻っていた。

そこにはまっちんさんもいるというから、

自分の願いがすぐに叶うような気がして、喜び勇んで駆けていた。

 商店街のアーケードにさしかかった辺り。

さっきの女に追いついた。

追いついて追い抜くときに女が泣いていることに気が付いた。

気が付いたけれど、別にキヨラにとっては関係のないことだったから、

立ち止まることもなく通りすぎた。

なのに、関係のないこと、なのに。

キヨラは見逃すことができない。

(も、俺、なんでよ???)

自分で自分にそう訊きたい。

なんでそんなにお前はややこしいことに首突っ込むのって言いたい。

でも泣いている女子を無視して

通り過ぎるなんてやっぱそういうほうが

不自然。

俺にとっての不自然。

だから声かける。

当然のことやん!

「あのぉ」

キヨラは急ブレーキをかけると、女に向かってバックしてきた。

「大丈夫っすか」

「はい」

近くで見ると丸くて柔らかそうな女は体だけでなく

頬も丸くて柔らかそうだった。

まるでおもちみたいだとキヨラは思った。

おもちちゃんの顔は涙でマスカラが流れて

汚かった。

「追い払っときましたから」

「ん。ありがとう」

おもちちゃんが笑った。

その顔がなかなか魅力的で、キヨラは嬉しくなった。

「俺、役に立ったんや」

「すごくね」女は言った。

「じゃああの男がマイナスで俺がプラスなんで、あんたは、もとのゼロにもどった」

「うん。ゼロに戻った」

信美はその言葉をかみしめた。

知らないパーマふわふわ男子高校生の言葉が心にぐっときた。

ゼロにもどってもいいって許してもらった

ような感じ。

「じゃ、俺、行きますんで。」

「ありがと」

キヨラはすがすがしい気持ちで再び駆け出した。

「お料理 てらもと」まであと少し。

うりゃ!全速力じゃ。

走ってこ。

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