パン作り 水分量 水温について現役パン職人が解説!仕込み水のpH、温度、水分量で生地は変わる。

おいしいパン作りのコツ
みなさま、こんにちは。ベーグルヤです。
急に寒くなってきましたね。
うちのベーグルさん達もなかなか発酵がゆっくりになってきましたよ。
夏場は追いつかないほどのスピードでふっくらしてくる生地も
温度が下がると人が変わったようにのんびり屋さんになります。
日々、その様子を見つめながら、
今年は今年の「冬のリズム」を編み出していきます。
パンを作り始めるとより一層季節の移り変わりを感じるようになります。
酵母は生き物ですから、
人間と同じように心地の良い温度が好きなのですね。
できるだけその性質に寄り添うようにパン作りを進めています。
では今日はパン作りに欠かせない材料「水分」について
掘り下げていきたいと思います。

パンの仕上がりに影響を与える「仕込み水」とは?

パンを作るのにかかせない材料に「水分」があります。
パン作りではこの「水分」のことを「仕込み水」と呼んでいます。
これは普通の水であったり、または牛乳や酵母液のこともあります。
実はこの「仕込み水」の温度、量、性質(PHと硬度)が、
パン作りにはとても重要なのです。

適切な仕込み水の温度とは

仕込み水温を求める計算式

大体の仕込み水温を知る目安として、広く一般的に知られている計算式を紹介します。

仕込み水の温度は室温、粉温度、仕込み水の温度を足したものを3で割って、

ミキサーの影響で上昇する温度をそこからマイナスすることで算出できます。

仕込み水の温度=(室温+粉の温度+仕込み水の温度)÷3−(ミキサーの摩擦により生じる上昇温度)※

※摩擦上昇温度はミキサーの大きさや仕込み量でも変わりますが、

ミキサー使用時の生地上昇温度は

一般的には6~7℃

特に夏は8℃、

冬は3℃ほど。

またニーダーを用いた場合は5℃程度。

例えば・・・

本日の室温が16℃だとします。

粉の温度は16℃で、

希望のこね上げ温度は26℃とします。

ミキサーを使用する時、今は冬なので3℃上昇すると考えて式に当てはめてみましょう。

(16℃+16℃+仕込み水の温度)÷3+3℃=26℃となって、

32℃+仕込み水の温度=(26-3)×3

仕込み水の温度=69-32=37℃

仕込み水の温度が37℃になることがお分かりですね。

「室温16℃、粉の温度16℃の時は37℃の水を用意すれば26℃にこねあがる」ということなのです。

パン生地は冷たいままではうまく発酵が進みません。

とくに冬場はこんなに温度の高い仕込み水を用意しなくてはなりません。

(あくまで机上の計算ですが)

それでもいくら室温が低く、計算ではこうなったから、と、

100℃に近いお湯を使用することなどできません。

なぜならイーストは45℃以上になると死滅し始めるからです。

またイーストの活性が最大になる38℃の仕込み水を使っても、

あまりに寒い時期は目標のこね上げ温度に達しないこともあります。

その時は湯せんでミキサーボールを温めて、

生地温度の調整をしなければならないこともあります。

逆に暑い夏はどうでしょうか。

室温は高く、それに応じて粉温も高くなりますので

仕込み水は冷たいものを使用します。

しかし限りなく0℃に近い氷水を使用しても

生地の温度が高くなる場合があります。

その時は仕込み水以外の材料

(粉、油脂、卵など)を冷やしたり、

ミキサーボールを冷やして生地温度の調整をしなくてはなりません。

それくらいに仕込み水の温度は発酵と深く関わっているのです。

生地のこね上げ温度について

ここで仕込み水の温度との関係で希望こね上げ温度という言葉が出てきましたので、

生地のこね上げ温度についても触れてみたいと思います。

パンを上手に作るポイントは何でしょう?と問われれば、

私は生地のこね上げ温度と答えます。

パン作りのコツは生地を順調に発酵させ、タイミングよく作業を進めることです。

生地のこね上げ温度が高いほど発酵時間は短くなり、低いほど長くなります。

こね上げ温度と発酵時間。

その相関を理解することが上達への近道となります。

春夏秋冬、室温は常に変化します。

こね上げ目標温度を毎回ぴったり同じにすることは不可能だと言えます。

しかしプラスマイナス2℃くらいまでなら許容範囲です。

ここで例を挙げてみましょう。

目標こね上げ設定温度28℃として一次発酵を50分、

二次発酵を30分させるとします。

実際のこね上げ温度が26℃しかなかった時、

この2℃の差を埋めるために、

一次発酵を10分追加の60分にして二次発酵を30分させる。

このように10分間一次発酵を引き延ばせば、十分回復できるでしょう。

自分がパンを作るときの仕込み水の温度、生地のこね上げ温度をその都度

記録していくことは、自分がパン作りをする環境を知ると言う点でも

失敗を繰り返さない方法であることは間違いありません。

ミキサーとニーダーの違いってなに?

さて、前の項目でミキサーとニーダーでは生地の温度のこね上げ時の温度に差があると述べました。

ここではその違いについて説明します。

ミキサー

パン屋で使用されている縦型ミキサーと同じく、生地を上から押さえつけた状態で回転させながらこねる。

そのため生地の中に十分な酸素を取り込むことができ、引き延ばしたり折りたたんだりすることでなめらかな伸展性のあるパン生地に仕上げることができる。

※パン生地を引き延ばしたり折りたたんだり→これは手ごねの作業でも繰り返し行いますね!

家庭用ならスタンドミキサーがパン作りに適している。付属の「ドゥフック」や「スパイラルフック」を使用することで業務用縦型ミキサー同様の生地の仕上がりが期待できる。

ニーダー

内釜(もしくは外釜)の底部にあるハネを回転させることで生地をこねる構造。

そのため、生地を下側から転がしながらこねるので、生地は上に逃げがちになる。

そのため、ミキサーよりも生地に巻き込む酸素は少なくなる。

ミキサーよりも作業効率は低い。

それならニーダー(ホームベーカリーも同様)ではおいしいパンを作れないの?

と思われるかもしれません。

たしかに、本格的にパン作りをしたいというならばスタンドミキサーが適しています。

しかしかなり値段は高くなります。

それに比べ、家庭用のパンニーダーは、スタンドミキサーよりは安価なものもあります。

少量の生地からこねることができるので、家庭でのパン作りに適していると言えます。

また、ホームベーカリーのこね機能を使えば一石二鳥。

新たに置き場所の心配をする必要はありません。

ミキサーにするかニーダーにするか・・・迷いますよね。

でも、これは自分のパンを作る目的の最終地点はどこなのか、によるのではないでしょうか。

誰しも有名ブーランジェリーと同等レベルのパンを焼きたい。

プロ級まで極めたい!

と思っているのではないと思うのです。

子供たちに安全な無添加パンを食べさせたい。

朝食に焼きたてのパンを食べたい。

それなら置き場所や価格の心配をする必要はないのかもしれません。

家庭でパンを手作りするために開発された家庭用パンニーダーなら

十分おいしいパンを作ることができます。

誰のためにどんなパンを作りたいか。

あくまで機械はそのための道具なのです。

仕込み水の性質とは?パンには硬水と軟水どちらが向いている?

パンには軟水、硬水どちらが向いている?
パン生地の仕込み水には軟水がよいのでしょうか?
それとも硬水?
水の硬度は溶け込んでいるカルシウムとマグネシウムの量で決まります。
世界保健機構(WHO)は、
1,000mlあたりに含まれるミネラルが120mgを超えるものを硬水、
120mgを下回るものを軟水としています。
軟水か硬水かと言われれば、パン作りにはやや硬水のほうが向いているといえます。
硬度が高すぎてもいけません。
硬度が高いと生地は硬くなり、反対に低すぎると、
グルテンがやわらかくなり生地がダレてしまいます。
極端に硬水、または軟水といった水は選ばないほうが無難です。
パン作りに適した弱酸性水について

次に仕込み水のpHについてです。

軟水か硬水か、というよりもpHの方がパン作りには重要です。

仕込み水にアルカリ性の強いものは適さないのです

なぜなら多くのパン生地はpH7(中性)~pH5(弱酸性)に位置しているからです。

これは製パンの原料が中性から弱酸性であるのと、

イーストのアルコール発酵の副産物である有機酸が弱酸性であるからです。

最近では、パン作りにアルカリイオン水
(pH値が8.5~9.5程度)を使う人もいると聞きますが、
弱酸性のパン生地にアルカリ性の水を
加えることは、
パン生地発酵や膨張に直接的に悪影響を与えてしまいます。
イーストは弱酸性の環境下で
自らの力を最大限に発揮できるので、
パン生地が弱アルカリ性になれば
活性がたちまち落ち、
パン生地中の糖質を分解し消化して炭酸ガスを産出するという
発酵のシステム機能そのものが低下してしまいます。
炭酸ガスが十分に生産されないということは、
パンが膨らまないということです。
弱酸性の水はイーストにとっては活動しやすい環境となりますが、
酸性が強くなるにしたがってパン生地中のグルテン組織は弛緩します。
それは言い換えると「ややダレ気味になる」ということなのですが、
この変化は微妙なレベルで、ご家庭でのパン作りに大きな影響はない
と考えられるほどの変化です。

水分量の違いによるパン生地の状態について

今度は、パン生地に使用する粉のトータル量を100%と考えた時の

粉量に対する全水分量、加水率について考えてみましょう。

ここでいう全水分量は、仕込み水だけでなくすべての材料に含まれる水分の総量をいいます。

リーンな生地は小麦粉が

材料の大半を占めるので、

粉対比の仕込み水量で大体の生地の硬さをイメージできるのですが、

リッチな生地は基本材料のほかに数多くの副材料が配合されるので複雑になります。

リーンな生地とリッチな生地についてはこちらをご覧ください。

リーンなパン・リッチなパンの違いとは?現役パン職人が教える副材料の秘密
リーンなパン・リッチなパンの違いとは?現役パン職人が、バター、卵などの副材料の働きについて詳しく解説します!
製パンに適した水分量は自分がイメージするパンの出来上がりによって変わります。
例えば加水率60%というのは、小麦粉100gに対して60gの水を加えるということです。

加水率 55~60%

水分の少ないパン(例:ベーグル)

パン生地は硬く作業は少し大変ですが、
焼き上がりは目が詰まっていて
噛み応えがあります。
加水率 65%前後
やわらかくソフトな口当たりのパン
(例:食パンや菓子パン)
こねやすくてまとまりやすいパン生地で発酵の進みも良い。
初心者さんにも挑戦しやすいパンです。

加水率 70~80%

ハード系のパン(例:フランスパンやカンパーニュ)

粉に対して水分が多いため、パン生地をまとめる際はヘラなどを使ってこねすぎないようにする。
焼き上がりは大きな気泡が多く、
モチモチとした食感になります。
このように水分量の違いによって、パンにはさまざまなバリエーションが生まれます。
ここでワンポイント!
パン生地づくりで水の分量を計算する時は、
使用する粉の産地にもぜひ目をとめてみてください。
それは外国産小麦粉のほうが国産小麦粉よりも吸水性が10%程度高いからです。
ご家庭でパンを作るとき、レシピ通りに作っても
パン生地が柔らかすぎる、
硬すぎる、ということがあるかもしれません。
それはきっと国産小麦か外国産小麦かの違いかもしれません。
レシピに使用小麦の指定があれば、
これを頭の片隅において
水分量を調節してみてはいかがでしょうか。

まとめ

・仕込み水の温度と生地のこね上げ温度がパン作りにおいては重要である。
・仕込み水は、やや硬水で弱酸性のものが向いている。
・加水率を調整することで自分のイメージするパンのできあがりに近づくことができる。
仕込み水がどれほどパン作りに重要かわかっていただけたと思います。
パン作りって奥が深いですね。
ぜひ楽しんでパンを焼いて下さいね!

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