パンの発酵 失敗したら?パンはなぜ膨らむの?パンが膨らまない原因は?現役パン職人が発酵のメカニズムを詳しく解説!

おいしいパン作りのコツ

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パンはなぜ膨らむの?まずは簡単にお話します

パンは①イースト菌による発酵②小麦タンパクと水が結合して生成されるグルテン組織の二つの存在があって初めて膨らみます。

イースト菌による発酵

イースト菌がパン生地の中のショ糖やデンプンを酵素によってブドウ糖や果糖に分解し、それを栄養分として取り込み消化、排出します。

その排出物が炭酸ガス香り=エタノール(芳香性アルコール)です。

そしてこの排出物の中でも炭酸ガスがパン生地を膨張させる原動力となります。

この炭酸ガスは途中でガスを抜いてもパン生地をつぶしても再び発生します。

最終的に生地を焼成してイーストが熱で死滅するまで発生は続きます。

グルテン組織

小麦粉に水を加えてこねると、小麦タンパクのグルテニンとグリアチニンが水と結合し粘弾性・伸縮性のある網膜状の組織ができます。これがグルテンです。

このグルテン組織が生地を膨張させた炭酸ガスを包み込んで逃がさず保持します。

炭酸ガスとグルテンの関係はまるでゴム風船のようです。

息を吹き込むと風船が薄い膜状に伸びていくのは、グルテン組織に包み込まれた炭酸ガスがてパン生地を膨らませていく様とよく似ています。

焼成中も生地は膨らんでいる

発酵中だけではなく、オーブンの中でも生地は膨らんでいます

生地を加熱すると生地中の炭酸ガスの気泡が膨張してもっと大きくなります。

やがてグルテンやデンプンは焼けて固まり、膨張は止まります。

こうしてパンはふっくらと膨らみ、ボリュームを保持できるというわけです。

発酵を助ける砂糖について

パンをふっくらと膨らませるのに重要な材料。それは「砂糖」です。

砂糖はパン用イースト菌の栄養源となるからです。

パン用イースト菌の種は「サッカロミセス・シルヴィシエ」と呼ばれるもので、まずパン生地に混ぜ込むとその時点では酸欠状態になっています。

これ以上呼吸ができなくなると「発酵」のスイッチが入ります。

イースト菌は自分の中にインベルターゼ、チマーゼ、マルターゼという酵素を持っています。

まずインベルターゼという酵素で単糖(ブドウ糖と果糖)を作り、次にチマーゼの力を借りてこの単糖をエタノールと炭酸ガス、そして少量のエネルギーに分解します。

この一連の活動が「発酵」のメカニズムです。

エタノールはパンの香りに、炭酸ガスはパン生地をふくらませる力に、そしてエネルギーはパン生地の温度を上げるのに役立ちます。

このように砂糖はイーストの栄養源として発酵を助ける役割があります。

砂糖についてはこちらの記事も参考にしてください。

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砂糖の力なしでも発酵は起こる

パン作りの際にリッチなパンなら材料に砂糖を入れますが、

バケットなど、小麦粉、水、塩といったシンプルな材料で作られるリーンなパンの場合は

イーストは自ら小麦粉に含まれるデンプンを粉の中にある酵素や自身の体内に存在する酵素の力で糖に分解して栄養とします。

リッチなパン、リーンなパンについて知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

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小麦粉は小麦の粒を挽いて粉にするのですが、この時に摩擦熱などでデンプンの全体のうち10%ほどが変性して損傷デンプンになっています。

これがイーストの栄養源となるのです。

粉にはαーアミラーゼという酵素が含まれていて、その酵素によって長い鎖状の損傷デンプンの組織が短い鎖状のデキストリンに分解されます。

次にβーアミラーゼがデキストリンを麦芽糖(単糖類のブドウ糖同士が結合した二糖類)に分解します。

最後にイーストの体内にあるマルターゼがこの麦芽糖を分解しブドウ糖となり、

それをイーストが栄養とするのです。

このように砂糖が含まれていなくてもパンはふっくらと膨らみますが、

砂糖が含まれているとイーストが簡単に効率よく栄養を補給できるので、

柔らかくふっくらとしたパンに焼き上がる傾向にあります。

一次発酵~分割・丸め~ベンチタイムまで

それでは一次発酵~分割・丸め~ベンチタイムと続く工程を詳しく解説していきましょう。

パン作りには温度管理がとても大切です。

でも家庭ではホイロ(発酵を管理できる機械)がないので、パン生地の発酵に適した環境を用意するのはなかなか難しいですね。

発酵中の生地に乾燥は大敵なので「濡れふきんをかけて温かい部屋の中で発酵させてください」

などとよくパン作りの本に書いてありますが、パン作り初心者の方には漠然としていてよくわかりませんよね。

結局は何度もトライ&エラーを繰り返すうちに自分のパンを作る場所の環境に慣れてきて

どんなふうにすればうまく作れるかわかってくるのですが、そうなるまでは忍耐が必要です。

失敗を繰り返し、パン作りは難しいとあきらめてしまう方も多いです。

けれど発酵の仕組みを知っていれば失敗の原因が何なのかわかると思います。

原因を知ることで次はきっと成功することでしょう。

一次発酵

パンが捏ねあがったらまずは一次発酵です。

一次発酵では生地を滑らかに丸くまとめます。これはどうしてなのでしょうか?

この作業が必要な理由は、生地の表面を張らせることで生地表面のグルテンを緊張させパン生地の中に発生した炭酸ガスを保持するため、です。

またパン生地の表面が綺麗だと、発酵の状態(膨張の度合い)がよくわかるメリットもあります。

捏ねあがった生地はべたべたして扱いにくいので丸めておくことで扱いやすくするという効果もあります。

パン作りのプロは発酵機に入れてそのまま発酵させても適切に発酵状態を見極められるので、丸めなくてもいいのですが、やはり家庭のパン作りにおいては「丸め」の工程は飛ばさないのが無難だと思います。

そしてもう一つ大切なのは生地が乾燥しないように濡れふきんやビニールシートで被うということです。

お部屋の湿度が低いとパンの表面が乾燥し、俗にいう「皮ずった状態」となります。そうなると生地が膨張するのが妨げられますし、最終的にパンになった段階でその乾燥した部分が残ってしまう可能性もあります。

パンを上手に発酵させるために生地を乾燥させないというのも大切なポイントです。

発酵状態の見極め方

一次発酵をする際に大切なポイントは何か、わかっていただけたと思います。

パン作りを成功させるには「温度」と同じくらい「時間」も大切な要素です。

パンは生き物なので、レシピ通り忠実に作っても必ずしも成功するとは限りません。

その時々の室温によって、本来ならば発酵時間を調整する必要があります。

それでは発酵がうまくいったかどうか、どうすればわかるのでしょうか?

それは「膨倍率(ぼうばいりつ)」で見極める、ということです。

これは最初に捏ねた生地の体積を1として、発酵後の生地が何倍になったか?ということです。

発酵の進み具合はイーストの活動によってどれくらい炭酸ガスが発生したかということに深く関係しているからです。

イーストが活発に活動すると炭酸ガスは多く発生し、その分パンの体積は大きくなりますね。

イーストの活動は栄養分が多ければ多いほど、また限度こそありますが捏ね上げ温度が高いほど促進されます。

その時々の仕込みごとに生地の硬さや温度が違うのは当たり前のことです。

膨倍率が3倍になるのに60分かかるときもあれば90分かかかることもあります。

パンの発酵の見極めは時間ではなく、「膨倍率」なのです。

発酵状態の見極め方 指穴テスト

イーストのガス発生により、発酵が進んでくるとパン生地表面のグルテンの組織が引き伸ばされます。

その結果グルテンの弾性は弱まってきます。

それを五感で判断しようというのが指穴テストです。

方法は、まず人差し指に小麦粉をつけて第二関節まで発酵した生地の真ん中に差し込みます。

次に差し込んだ指をスッと抜きます。

指の抜き跡が少し縮みながら残っている状態。スポッと穴が開いたままの状態です。これが最初の生地発酵のピークのサインです。

生地が発酵不足の時は、穴はすぐに縮んでしまいます。

反対に発酵過多の時は弾性が失われ、指を差し込むだけでガスが抜けて生地がしぼんでしまいます。

指穴テストだけでなく、他にも発酵状態を判断する材料はあります。

発酵不足だと生地の表面はべたつき気味で湿った感じです。

色は濃い感じがして、イースト臭もします。

発酵過多だと生地は乾き気味で白っぽく見えます。またアルコール臭もしてきます。

見て触って嗅いで自分の五感で判断するというと科学的ではないし、

漠然としていてわかりにくいなと感じるかもしれません。

けれどこれこそがパン作りの面白いところだと私は思います。

五感をフルに生かして生き物であるパンと向き合ってみてください。

そうすれば出来上がったパンが一層おいしく愛おしく感じられると思うのです。

一次発酵後はどうして「生地丸め」をするの?

十分に発酵した生地は次の工程で分割して丸め直します。

この「生地丸め」、なぜ必要なのでしょうか?

それは2点理由があります。

①生地の表面に張りを持たせることで表面が滑らかになり、焼き上がりの肌がパリッと美しく仕上がる。
②グルテン組織に適度な刺激を与えてパン生地の抗張力を強化しパンのボリュームを大きくする。

この「生地丸め」の時に注意するべきポイントは綴じ目をしっかり閉じることです。

生地を回転させて丸めることでたるみを中心に折り込んでいくことでプリっと張らせるので、

綴じ目をしっかり閉じておかないとまたたるんでしまいます。これはガスの保持力を保つために大切なことなのです。

ベンチタイムって必要なの?

ベンチタイムとは生地を分割し丸めた後に生地を休ませる時間です。

丸めた生地をすぐに成型しようとしても弾力が強すぎて縮んでしまい

うまくいきません。

ベンチタイムというのは、実は発酵時間の一部で、たとえ10分休ませているだけでも生地は発酵し続けています。

なので、ベンチタイムの間にもイーストの働きによって炭酸ガスは発生していて、生地は膨張しています。

グルテン組織は引き伸ばされて弾力が低下するので、生地は扱いやすくなるのです。

実際のベンチタイムは15分~20分ですね。

作業台(ベンチ)の上で休ませていたことから、ベンチタイムというようになったようです。

ベンチタイム時に注意するべきことは温度です。

ここでも高すぎると発酵過多になってしまうし低すぎると発酵未熟になってしまいます。

難しいけれど、生地が気持ちいいと感じる環境を作ってあげることが成功の秘訣だと思います。

パンがうまく膨らまない時のチェック点 まとめ

十分にこねているかな?生地のこねが足りないとグルテンができていないからガスの保持ができません。

生地のこね上げ温度が低すぎないかな?生地の温度や室温が低すぎないかチェックしてください。

一次発酵の時やベンチタイムの時に生地が乾燥していないかな?濡れふきんやビニールシートをかけてください。

「生地丸め」の工程で丸めたあと綴じ目をしっかりと閉じているかな?生地がゆるんでガスが逃げてしまうのでしっかりと綴じ目を閉じてください。

「発酵不足」「発酵過多」ではないかな?発酵不足だとガスが足りないから焼いても膨らまない、発酵過多だとガスを出し切ってしまって残っていないから膨らまないですよ。

適正な発酵具合を指穴テストで確認してください。

さてさて・・・パンの膨らまない原因はさまざま。

だけど発酵の仕組みを知っていれば、おさえるポイントも見えてきます。

パン作りは生物のようで科学のようで面白いですね。

ぜひ美味しいパンを作ってくださいね!

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