開業目前の最終チェックリスト:手続きは「3か月前」から
なぜ「今」手続きを始めるべきなのか?

保健所の許可取得(ステップ③)まで来たら、もうゴールは目前です!
ここからは、パンを焼くこととは少し離れて、「税務署や役所への手続き」という、面倒だけど絶対に避けて通れない最終準備の話をします。
「開業届なんて、パンを売り始めてからでいいのでは?」と思うかもしれません。しかし、手続きの中には時間がかかるもの、開業日より前に提出すべきものがあります。
特に青色申告(節税に必須!)を選ぶ場合など、提出期限を過ぎると大きな損をしてしまいます。
設備投資や工事を終えてホッと一息つく「開業の3ヶ月前〜1ヶ月前」の間に、これらの手続きを済ませてしまえば、本業に専念できます。
【提出先をチェック!】
個人事業主として自宅で菓子製造業を開業する場合、主に以下の提出先への届出が必要になります。(深夜営業やお酒の提供がない場合)
- 税務署:開業届、青色申告承認申請書など
- 消防署:火災報知機や消火器などの設置義務や届出について、事前に確認しておきましょう。(※自治体や製造所の規模により、届出が必要な場合があります。私は特に届出の必要はありませんでしたが、念のため確認することを強くお勧めします)神戸市の消防申請についてはこちらにリンクを貼っておきますのでチェックしてみてください。また一部書類申請はオンラインでも可能となったので、それもチェック→オンライン申請
- 保健所:営業許可申請(これはステップ③で完了済みですね!)
手続きは煩雑に見えますが、必要な書類は意外とシンプルです。次のセクションで、最も重要な税務署への手続きを解説します。
最重要!税務署への「2大提出書類」を理解する
保健所の手続きが済んだら、次に手を付けるべきは税務署です。
「税金」と聞くだけで難しく感じるかもしれませんが、自宅で小さく始める私たちにとって、提出すべき書類は実質たったの2種類です。そして、この2種類を出すか出さないかで、将来の手元に残るお金が大きく変わってきます。
開業届はなぜ出す?「白色」と「青色」の賢い選び方

個人事業主として事業を始めたら、まずは「個人事業の開業・廃業等届出書」(通称:開業届)を税務署に提出する必要があります。
この開業届を出すとき、最も重要な選択が「白色申告」にするか「青色申告」にするかです。
- 白色申告: 記帳が簡単で、誰でも気軽に選べます。
- 青色申告: 記帳は少し複雑になりますが、それを補ってあまりあるほどの強力な節税メリットがあります。
【私からのメッセージ】
自宅で菓子製造業を始めるなら、迷わず「青色申告」を選んでください。
青色申告の最大のメリットは、最大65万円の所得控除です。その内訳は以下の通りです。
- 10万円控除: 簡易な記帳(簡易簿記)で申告した場合。
- 55万円控除: 複雑な記帳(複式簿記)で申告した場合。
- 65万円控除: 複式簿記に加え、e-Tax(電子申告)を利用して申告した場合。
複雑に聞こえますが、クラウド会計ソフトを使えば、複式簿記もe-Taxも自動でできてしまいます。
この手間を惜しむと最大65万円の所得控除を受けられなくなってしまいます。
少しでも手元にお金を残すことを考えると「これは本当に痛い!」です。
「青色申告承認申請書」を出すシンプルな手順と私の体験談
青色申告のメリットを享受するためには、開業届とは別に「青色申告承認申請書」という書類を提出する必要があります。
【私の実体験から学んだこと】
- 提出は早めに準備を:私(ベーグルヤ)は平成24年3月1日にオープンしましたが、なんとその4ヶ月前の平成23年11月には税務署に連絡を取り、青色申告の書類をすでに手元に用意していました。実際の開業届は3月12日に提出しましたが、期限に追われずに済むよう、早めの行動がおすすめです。
- 無料の税理士指導を利用する:書類提出時に、無料で税理士から記帳方法の指導を受けたいかどうかの希望アンケートがあります。これは絶対「希望する」にチェックを入れてください!おおむね半年後くらいに個別指導が受けられます。それまでは、家計簿をつけるような感覚で、出納帳簿に日々の会計をもれなく記入しておけば大丈夫です。もし会計ソフトを導入済でしたら、入力しておいてください。また、申請書には、使用予定の会計ソフト名も記入しましょう。
- 絶対にe-Tax申告。65万円控除を受ける:青色申告特別控除は、電子帳簿保存法に基づき、e-Tax(電子申告)で電子記録を残していれば65万円控除が受けられます。この10万円の差は非常に大きいため、絶対にe-Taxで電子申告してください。
この2つの書類(開業届と申請書)は、
クラウド会計ソフト(マネーフォワードクラウド/Freeeなど)使えば
非常に簡単に作成・e-Tax連携ができます。
税金で損しないために必須の会計知識①:自宅兼店舗の「家事按分」
家賃・光熱費を経費にするための考え方

自宅で開業する最大のメリット、それは家賃や光熱費などの「生活費の一部」を経費にできることです。これは「家事按分(かじあんぶん)」という仕組みを使います。
業務に使っている割合を計算し、その分だけ経費として計上できるというものです。
【家事按分の基本ルール】
- 製造所のスペース: 自宅全体の面積のうち、製造専用に使っているキッチンや保管スペースが占める割合を計算します。
- 経費の按分: 家賃や火災保険料、固定資産税などは、その「面積割合」を適用して経費にします。
- 光熱費・通信費: 電気代やガス代、インターネット代などは、業務で使っている「時間や使用量」を考慮して、合理的な割合で経費にします。
※買い出しで家の自動車を使う場合などはガソリン代も経費にできますよ!
大切なのは、「合理的な理由」で割合を決めること。
例えば、自宅全体の床面積が100㎡で、製造所が30㎡であれば、家賃の30%を経費として計上できます。「なんとなく」ではなく、図面に基づいた合理的な説明ができるように準備しておきましょう。
これこそ、自宅開業者が確実に活用すべき、賢い節税術です。
税金で損しないために必須の会計知識②:高額設備の「減価償却」とは
オーブンや工事費は「一度に経費にできない」仕組み(減価償却)
菓子製造業で一番大きな買い物といえば、オーブンや空調設備、そしてキッチン改築の工事費です。これらは金額が大きいので、「購入した年に全額経費になる」と思ってしまいがちですが、実は違います。
法律では、10万円以上の高額な設備や改築費用は「減価償却資産」として、法律で定められた耐用年数にわたって少しずつ経費にしなければならない、というルールがあります。
開業届を出すと、今度は市役所の行財政局主税部固定資産税課の償却資産担当から、
「償却資産申告書」が送られてきます。
その書類に記入し、年に一度申告することが必要となります。
私の場合も毎年申告書を作成し、提出していたのですが、3年ほど前からでしょうか、
いつも来ていた封書がはがきとなり、「変更があれば連絡してください」と文言が変わりました。
「変更がある」というのは、例えば減価償却する資産が「パソコン」だった場合、破損などで手元からなくなってしまったら、その資産に対する減価償却ももちろんなくなりますよね。
そのため、「もう資産がない」ということを申告しなければならないということです。
【私の実例:ガレージ改築費の償却】
私のガレージの改築工事費は140万円かかりました。私はこれを「建物附属設備」として20年で減価償却することに決め、毎年7万円ずつ経費として計上しています。このように、大きな出費は年をまたいでゆっくり経費になっていきます。
【青色申告の特例:30万円未満の資産の活用】
青色申告をしていると、30万円未満の資産であれば、購入した年に全額経費にできるという特例があります。私は空調の付け替えや、新しいオーブン・ミキサーの購入時、この特例を積極的に使い、その年の節税効果を最大化しました。
高額なものは償却、30万円未満のものは一括経費。この判断基準が非常に重要です。
家族を専従者にする賢い節税術と届出(選択肢として)
自宅開業の大きなメリットとして、家族の力を借りて節税するという強力な選択肢があります。私自身は現在この制度を利用していませんが、もしあなたが配偶者や家族に給与を支払い、それを経費として認められたいと考えるなら、これは検討すべき事項です。
この場合、「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出する必要があります。
なぜ届出が必要なのか?
届出を出せば、家族への給与が全額経費となり、あなたの所得(利益)が下がるため、家計全体で支払う税金を大きく減らせます。
【ただし注意!】
専従者給与を支払う場合、その家族は配偶者控除や扶養控除の対象外になります。専従者給与として経費にする金額と、扶養控除として受けるメリットのどちらが大きいか、事前にシミュレーションすることがとても大切です。
これもまた、賢い事業主のやることの一つです。
まとめ:賢い「事務作業」でムダなく開業を完了する
「手続き」はパンを焼くことと同じくらい重要
これまで、保健所の許可(ステップ③)から、税務署への届出、そして難しい会計知識まで、
開業に必要な事務作業を見てきました。
「パンを焼く時間のほうが大事だ。こんな書類作業は後回しにしたい」と思う気持ちはよく分かりますが、この事務作業こそが、将来の手元に残る利益を大きく左右します。
適切な届出(特に青色申告)と知識(家事按分、減価償却)があれば、あなたは毎年数十万円の節税効果を得ることができます。
【最終チェック】開業までに忘れがちな3つの準備
書類提出以外にも、販売開始までに確認すべき最終的な準備があります。
- 1. 製造者賠償責任保険(PL保険):万が一、製造したパンや菓子が原因で食中毒や体調不良などを引き起こしてしまった場合に備える保険です。これは義務ではありませんが、リスク対策の一つとして、加入もありです。
- 2. 販売価格の最終決定:原材料費だけでなく、水道光熱費や家賃の按分、減価償却費といった経費すべてを含めた上で、お客様に提供する価格を決定します。
商品の価格は悩むところですよね。まずは自分の金銭感覚から決めるのですが、それが世間と大幅にずれていることもあります。
また、最初に価格を決めてしまうとなかなか値上げはできないものです。私の場合ですが、ベーグルヤは駅から離れていて立地条件が悪いため、あまり高い価格設定だとお客様が来てくださらない可能性があります。
自宅開業で家賃がいらないので、なんとかぎりぎりの価格設定でお安く提供できるように
頑張っています。 - 3. 販売場所の確定と販促準備:自宅での店頭販売なのか、イベント出店なのか、ネット通販なのか、販売ルートを確定させ、チラシやSNSでの告知を始めましょう。
開業は、知識武装した者勝ちです。
これまでお話ししてきた4つのステップを踏めば、あなたは自信を持って、そしてムダな出費を最小限に抑えて、夢の自宅パン屋をスタートさせることができます。応援しています。

