おいしいパン作りのコツ

ベーグルはどうして茹でるのか?ベーグル職人がケトリングについて詳しく解説

ベーグルはどうして茹でるのか?

ベーグルといえば、あのもっちり、ツヤッとした独特の食感と見た目が魅力。でも、その秘密をご存知ですか?

実は、ベーグルは焼く前に一度“茹でる”という特別な工程を経ています。この茹でる作業のことを「ケトリング(kettling)」と呼び、ベーグル独自の食感と風味にとって欠かせないステップなんです。

この記事では、神戸のベーグルヤRokkoがベーグル職人の視点から、ケトリングの科学的な理由やコツ、お湯に加える糖の種類まで、初心者の方でもわかるようにやさしく、くわしく解説します。

生地の膨張をおさえる

ケトリングによって、ベーグルの表面(クラスト)が一気に加熱されて固くなり、生地の膨らみすぎを防ぎます。ふわふわと大きく膨らみすぎると、あのクラム(中の生地)のぎゅっと詰まったもっちり感が失われてしまいます。茹でることで、内部の気泡が過度に広がらず、密度のある噛みごたえのある生地ができるんです。

生地の糊化とでんぷんのα化とは?

もう少し科学的に見てみましょう。

ケトリング中、生地の表面に熱が加わると、小麦粉に含まれる「でんぷん」が“糊化(こか)”します。これは、水と熱によってでんぷん粒が膨張し、構造が崩れて粘性を持つ状態になる現象です。糊化によって表面がなめらかに整い、焼いたときにツヤが出やすくなります。

一方、「α化(アルファ化)」という言葉は、でんぷんが水と熱によって生でんぷん(βでんぷん)から加熱変性された状態(αでんぷん)に変わることを意味します。これは糊化とほぼ同じタイミングで起きますが、α化はでんぷんの構造レベルでの変化を表し、より理論的・物理化学的な側面を強調しています。

簡単にまとめると:

  • 糊化=でんぷん粒が熱と水で膨らみ粘りが出る現象(調理現象の見え方)
  • α化=でんぷん分子が物理化学的に変性して水に溶けやすくなる構造変化

どちらもケトリング中に起こる重要な変化で、これによりベーグルの表面に「ハリ・ツヤ・噛みごたえ」のある皮(クラスト)が生まれる重要な過程なのです。

ベーグルを上手に茹でる3つのコツ(ケトリングの極意)

茹でることの大切さがわかったところで、ここからは自宅でケトリングを成功させるための3つのコツをご紹介します。

温度は85〜95℃をキープ

グラグラと強く沸騰させる必要はありません。お湯の温度は85〜95℃程度が理想的。弱くフツフツと泡立つくらいがちょうどよいです。温度が高すぎると、表面だけが過度に固まって中までうまく火が通らなかったりすることもあります。

家庭では、ぐらぐらと沸騰してしまったお湯を、火加減をゆるめて一息おいてからベーグルを入れるというのがいいですね。温度計があればベストです。なければ「お湯の表面に小さな泡が出るくらい」を目安にしてください。

茹で時間は片面30秒〜1分が目安

茹で時間によって、クラスト(皮)の硬さや食感が変わってきます。

  • 短め(片面30秒ずつ)クラストがやわらかめ、やや軽めの食感に。(ベーグルヤは食べやすさを優先。こちらを採用しています。)
  • 長め(片面1分ずつ)クラストがしっかり分厚くなります。噛みごたえあり

お好みの食感に合わせて時間を調整してみましょう。ひっくり返すときは、やさしく扱うのがポイントです。

ケトリング後はすぐに焼く!その理由とは?

茹でたあとは、水分がどんどん表面から蒸発していきます。このまま放置すると、生地の表面がしぼんでシワシワになることもあります

ケトリングが終わったら、しっかり水気を切ってすぐにオーブンへ。これが、ツヤとふくらみをキープするコツです。

ケトリングを成功させるためにお湯に加える糖類について

ベーグルを茹でるとき、多くのレシピで「お湯に砂糖やはちみつを加える」と書かれています。これ、ただ甘みを加えるためではありません。実は、ベーグルの見た目・香り・味わいに大きな影響を与える重要な工程なんです。

糖類をお湯に加えることで、焼いたときにより濃く、香ばしい焼き色がつき、表面には美しいツヤが生まれます。この現象には、「メイラード反応」という、食品科学でよく知られる反応が深く関係しています。

■ メイラード反応とは?

メイラード反応とは、糖とアミノ酸(タンパク質の構成要素)*が加熱によって反応し、茶色い焼き色や香ばしい香りを生み出す化学反応のことです。パンのクラスト(表皮)や焼き肉の香ばしい焦げ、クッキーの焼き色もこの反応によるものです。

ベーグルの表面に糖類がある状態で焼くと、このメイラード反応によりこんがりとした焼き色と香ばしさが加わります。反応を助けるためには、水分が少なめで高温で加熱される環境が必要です。

また、糖類は水に溶けやすいため、ケトリング中に生地の表面に薄く均一に糖膜を形成します。これが焼成時にツヤのあるクラスト(皮)を生む手助けとなります。ツヤは見た目の美しさだけでなく、表面の食感(やや歯ごたえのある皮)にも影響します。

さらに、糖によるわずかな甘い香りが、噛んだときに鼻へ抜ける風味を補い、ベーグル全体の印象をより豊かにしてくれます。つまり、糖類を加えることで、視覚・味覚・嗅覚すべてに作用する、ワンランク上のベーグルが完成するというわけです。

このように、ケトリング時の糖類の追加は、単なる甘味の調整ではなく、科学的にも理にかなった重要な工程です。

砂糖・はちみつ・モラセスの比較

糖類ツヤの出方焼き色風味
砂糖控えめ薄めシンプルで甘い
はちみつ中程度やや濃いやさしい甘みと香り
モラセスかなり強い濃い香ばしくコクがある

どれも美味しく仕上がりますが、本格派ならモラセスを使うのがおすすめです。

モラセス(molasses)とは、砂糖を作るときにできる副産物で、「糖蜜(とうみつ)」とも呼ばれます。黒みつに似た、とろりとした濃厚な液体です。

見た目は黒くて重たいですが、甘みの中にほんのり苦味や深いコクがあり、ベーグルに加えると焼き色と香ばしさがぐっと引き立ちます。

モラセスはクラシックなニューヨークベーグルの味に欠かせない存在。お湯に加えてケトリングすると、ツヤ感・焼き色・風味の三拍子がそろった仕上がりになります。

スーパーでは「糖蜜」「ブラックストラップモラセス」などの名前で販売されていることも。パン作りにちょっと本格感を出したい方におすすめです。

うまくケトリングできたか見極めるコツ

「茹でたけど、ちゃんとできたか不安…」そんなときは、以下のポイントをチェックしましょう。

「浮くか沈むか?」でベーグルの仕上がりを予測する

生地をお湯に入れたときにすぐに浮いてくるなら、発酵が順調に進んでおり、内部に気泡がちゃんとできている証拠です。

反対に、沈んでしまう、あるいは長く沈んだままの場合は、発酵不足の可能性があります。発酵時間を見直すなど、微調整してみてください。もし冷蔵庫でオーバーナイト発酵をしている、などといった場合であれば、常温にもどしてからケトリングするなどの対策が必要となります。

ケトリングでベーグルはもっとおいしくなる!まとめ

「焼く前に茹でる」なんて、最初はちょっと驚くかもしれません。でも、ケトリングこそが、他のパンとは違うベーグルの個性を作る大切な工程だったのです。

今回ご紹介したポイントをおさえれば、おうちでもおいしいベーグルが焼けるようになります。ぜひ、次にベーグルを作るときはケトリングにこだわってみてください。

焼きたての、もっちり&ツヤツヤのベーグルを作って食べて、ぜひ楽しんでください!

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