オリジナル小説

枝豆とカルピス 12

12. まっちんが店先に立ち、仕事を始めると、信美は部屋の掃除にかかった。 自分の部屋、両親の部屋、まっちんの部屋と、順番に掃除機をかけていく。 その間にドラム式の洗濯機はまわり続け、バスタブにふきかけておいたクリーナーの...
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枝豆とカルピス 11

11. 朝だ。 可乃子はまるで旅行にでも来ているかのような気分で、新しい布団の中で目を開けた。 起き上がらずにそのまま瞳だけを動かして あたりをうかがう。 視線の先には、古ぼけた黒いスーツケース と小さな...
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枝豆とカルピス 10

10 共同生活というものを、これまで生きてきてほとんどしてこなかった可乃子は、だれかが同じ空間に暮らしているという感覚を受け入れられない。 しかもその同居人は若い男子である。 (てへへっ、若い男子たってあたし産んでんだけど...
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枝豆とカルピス 9

9. ぱちん ぱちん 早朝、まだ薄暗いバーカウンターでひとり、 健士は昨夜の黒豆の残りを枝から外していた。 黒豆は鞘の根本から切ってしまわず、鞘をすこし切る様子で枝から外すのだ。ついでにお尻のほうの鞘にも切り込...
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枝豆とカルピス 8

8.「もうくっついてこないでよ」 可乃子は太ももに強くしがみついてくる健士のことを押しのけた。 それでも健士はぐずぐずと泣きながらくらいついてくる。 「なんでわかんないの?あたしは嫌だって言ってんの 離してって言って...
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枝豆とカルピス 7

7.賑やかな話声が店の中にあふれている。 それを背中に、正彦は静かに階段を上がった。 可乃子がいつまでたっても降りてはこないのがふいに気になったからだ。 暗く狭い階段を登りきると、 開けっ放しになった和室のガラス戸か...
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枝豆とカルピス 6

6.「うわまじで?てらちゃん死んでもた」 可乃子は古ぼけた和室に飛び込むと、てらちゃんの位牌の前で声をあげた。 小さな文机に白い布がかけられ、銀糸の綺麗な布に覆われた遺骨が 黄色と白の菊の花とともに置かれていた。 両...
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枝豆とカルピス 5

5.「でね、友達のお父さんが亡くなっちゃったんです」 客待ちのレジの中で、唐揚げを補充しながら 可乃子はキューちゃんの話を聞いていた。 「仕送りとかもストップしちゃって、学費とかももう大変で、 大学やめなきゃいけない...
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枝豆とカルピス 4

4,「可乃子さん、寝不足ですか?」 「ふぁー。そうなん、なんか夢見ちゃって、 よく眠れなかったんだよねぇ」 遅刻寸前で飛び込んだコンビニで可乃子は ぼさぼさと頭をなでつけながら カウンターの中にのろのろと進んだ...
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枝豆とカルピス 3

3.十年後 「健士、健士ぃ、まだ寝てんのか?」 勢いよく「お料理 てらもと」の入り口の引き扉が開けられたかと思うと、 まるでボールが弾むように浅野兄弟が店の中に入ってきた。 「いったいいつまで寝てんねん?」階段の下か...
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